Arashiology

大野担の嵐オタクによる嵐論

第二章

First impression ありふれた出会い

 

私が嵐をまともに認識したのは今から10年ほど前になる。

海外生活を始めて数年が経ち、環境の変化に慣れる一方で、日本の情報から取り残されていると感じた私は、あるとき日本のドラマでも見てみようかなと思い立った。そこで、友人が原作を好きだった「花より男子」のドラマ化したものを見てみた。面白かった。続きがあったので続編も見た。この時点で、道明寺役を嵐の松本潤という人が演じていることは認識していたが、主題歌を嵐が歌っていることはあまり気にしていなかった。

 

思えば、嵐というアイドルを初めて五人揃って見たのは、2005年当時の某女性誌だった。

巻頭記事を目当てにそれを買った私は、中盤に掲載されていた嵐のグラビアを見て、「うーん、この子はハンサム。この子はまあまあ好みかな」と、女性誌の読者が当たり前にするように普通に見た目の好みでジャッジした。ちなみに、当時ハンサムと判断したのは松潤、まあまあ好みだったのは翔くんと相葉ちゃんだ。大野くんとニノは当時の私のアンテナには引っかからなかったわけだが、それが後に私の推し&サブ推しになるとは、人生何が起きるか分からないものである。

 

ドラマ「花より男子」を見て、ツンデレでキュートな道明寺を演じた松本潤を認識した私は、嵐の他のメンバーの出演するドラマを探した。当然の流れで、花男を受けるように制作された「山田太郎ものがたり」が引っかかり、ちょうどいい学園ドラマだなと見始めた。当時の感想は、「御村くんかっこいいな。誰だ、このイケメンのお坊ちゃまは」。…どうも当時の私は、主演は嵐の二宮くんだと認識していたが、もう一人の主演である櫻井くんのことは認識していなかったらしい。ましてや、主題歌を嵐が歌っていること、最終話に登場するビラ配りのお兄さんが後の自担であることなど、知る由もない。

 

南くんの恋人」や「君はペット」など、嵐出演作をいくつか見終えた私は、それらがまあまあ面白かったことから、別のメンバーの出演作も見てみようと検索し、「魔王」に行きつく。当時は、私が知らないだけで、嵐のメンバーは若いころから様々なドラマに出演していて、もっと五人の出演作品がごろごろ出てくるものだと思っていたので、これが大野くんの初主演作とは知らずに見始めた。

 

「魔王」は、爽やかなラブコメや学園コメディだったこれまでの嵐メンバーのドラマとは違い、重めのサスペンスだった。初回からストーリーの全貌が見えるような作りで、成瀬領が復讐を企てていること、彼のシナリオ通りに過去の事件の加害者たちが殺されていくのだろうな…という展開が分かったので、その予想どおりに進んだ第3話までで少し飽きてしまった。しばらくドラマの続きを見なかったのだが、ふと思い出して第4話を見始めてからは、止められずにほぼ一気見だった。

 

復讐のためにひたすら暗い淵を見つめて生きてきた男が、自分の中の愛情や良心に気付き、葛藤を始めてからの表現が抒情的で、心が揺さぶられた。最終的に成瀬に残された選択肢は死だろうなとは予想していたが、彼が人間的な感情に目覚める展開は予想していなかったので、その繊細な感情表現に心を掴まれた。もはや、性別や役柄というカテゴリーを超えてその存在が美しい、と成瀬の佇まいを見ながら何度も思った。フリージアを抱える儚げな姿。復讐相手と対峙する挑発的な表情。自分が陥れて殺した相手を見下ろす冷たい視線。愛する相手と神を前に「僕は天使なんかじゃありませんよ」とうっすら微笑んだ瞬間、その瞳から零れる一筋の涙。こんなんマンガだろ!とツッコみたくなった。

 

最終話はさらに二次元だった。

ラストシーンで、安堵したような穏やかな表情を見せる成瀬。「僕にはあなたを殺せない…」と芹沢直人に言われた直後、それまで冷静で紳士的な態度を崩さなかった成瀬から仮面がはがれる。その下にあったのは「罪に苦しむ顔」だった。感情があふれて掠れる声、震えながら携帯電話を取り落とす手、どれもこれも非現実的な美しさなのに、成瀬の言動はあまりにリアルで、そこに居合わせてしまった一視聴者(私)はただ息を詰めて彼の魂の叫びを聞くしかなかった。

 

ドラマを最後まで見た私は、「これは本当にドラマだったのか? もしかしたら成瀬領は実在の人物で、彼はもういないが、彼の生きてきた痕跡を追うことができるかもしれない…」、そんなことすら考えてしまうほどにリアルな存在感を受け取った。復讐を人生の目的にして生きてきた人間がいたとして、その人はあんな風に振る舞い、あんな風に罪を負って死ぬのではないかと、通りすがりの視聴者が、その人生に共感して同情してなぎ倒されてしまうような圧倒的なリアリティを、成瀬は見せてくれた。

 

ドラマを見終わってから、たまらず最終話を何度もリピートした。涙は出なかったが、成瀬の人物造形には、制作者や演者の、そして原作の究極の美学を感じた。成瀬領は警察に捕まって刑務所暮らしなんかしてはいけない。美しく死ぬべきだ。その美学にも共感した。夜が白々と明けるまでドラマを繰り返し見て、いい加減にして床に潜り込むも、やはりドラマの世界が押し寄せて眠れない。そんな経験は生まれて初めてのことだった。

2019/3/14