Arashiology

大野担の嵐オタクによる嵐論

第四章

Their act, their role 役者としての彼

 

大野担が大野くんにハマるきっかけは、ダンスだったり、歌だったり様々だ。

確かに彼のダンスは軽やかで、バレエを彷彿させるようなターンはもう絶品だ。歌だって、アイドルを名乗るのが許せないくらいのテクニシャンで、五人で歌っているときは、実質的にガイドボーカルを務めているのではないかと思うくらい、音も正確だ。何より声がいい。嵐は五人の声に個性があってそれが嵐の曲の魅力になっているのだが、大野くんの歌うフレーズはとりわけ頭に残るものが多い。これは大野担が大野くんの声を探しながら聞いているからかもしれないけれど。

 

だが、そういう大野くんの数々の魅力を差し置いて、私が一番惹きつけられるのは彼の演技である。私が大野担になったきっかけがドラマだったせいかもしれないが、彼のようにお芝居をする人を私は今まで見たことがない。ドラマ評ではよく「憑依型」と表されているが、要は、自我を完全に消して、役そのものになりきるタイプのお芝居だ。役を演じている時は、しゃべり方から歩き方からクセまで本人とは別人になってしまう。まさに北島マヤ恐ろしい子…。

 

例を挙げるまでもないが、「魔王」で成瀬領を演じているときは、背筋を伸ばして優雅に歩き、やわらかい声でしゃべっている。「怪物くん」はがに股だし、「ピカ☆☆ンチ」のハルは内股でモゴモゴしゃべる。「世界一難しい恋」のレイさんは、どうやらポケットに手を入れるクセがあったらしい。

 

ジャニーズのかざぽん(風間俊介くん)はかつて、自分の思うジャニーズ演技王のひとりに大野くんを挙げ、「大野くんにできない役ってなんだろう」と発言している。自分がプロデューサーだったら、気弱な役も、極悪な役も、善人の役も、彼にできない役が想像できない、という趣旨だった。かざぽんも演技がうまいと私は思うが、役者としての彼はニノと同じタイプで、大野くんとはお芝居に対するアプローチが違うからそう思うのではないだろうか。

 

ニノのお芝居も私は好きだが、彼のお芝居は大野くんと違い、何を演じるにも自然体だ。彼の真骨頂はその顔立ちや声が生む佇まいで、倉本聰作品のようなしっとりとした物語とも親和性が高い。だから、これまでのニノの作品を見ると、正直、ニノの無駄遣いだなあと思うものもある。彼は出演作品が多いので、中には単純なミスキャストみたいなものもあるし、今後もやれと言われればやるだろうけれど、個人的にはコメディやアクションでは彼の魅力は活かしきれないと思う。大御所監督から声がかかり、賞レースを勝ち抜き、映画が主戦場になりつつあるのも、そういう彼への需要と供給がかみ合った結果だろう。

 

対して、大野くんのお芝居は自然体とは言い難い。むしろ強烈なキャラクターばかり演じているし、彼のアプローチならそのほうが合っていると思う。自然体なほうのお芝居の代表と言えば、「今日の日はさようなら」の耕太役があり、そういう演技もできるのは間違いないのだが、「最後の約束」で、自分のイメージで当て書きされた役を演じた際、どう演じていいか戸惑ったと本人が語っているとおり、彼自身が持つ自分のイメージが曖昧で、彼自身はどこまでも無色透明な自我の持ち主であるため、「自然体」はおそらく彼の鬼門である。つまり、「大野くんの自然体」とは、かなりの確率でぼやけた存在感を意味する。大野くんが普段、「何を考えているか分からない」だの「ミステリアス」だの言われる理由は、このあたりも関係しているのかもしれない。

 

しかし、無色透明な自我の持ち主であるということは、その上にどんな極彩色を塗りたくっても、毒々しく染め上げても、成立してしまうということだ。だから彼はどんな役でも演じることができる。子供も老人も、オカマも宇宙人も、ヤンキーだろうがホームレスだろうが、サイコパスだろうが、それこそ何だって演じられるだろう。それ故に、彼はお芝居をすることで自分の人格と役の境界線が曖昧になって、激しく消耗するのだと思う。「魔王」撮影中の大野くんがバラエティでもコンサートでも終始役を引きずっていたことは、大野担なら誰でも知っている。

 

繰り返すが、そういうお芝居のアプローチができる役者を、私は他に知らない。もちろん、私が知らないだけで、世の俳優さんの中にはそういうタイプもいるのだろう。だが、多くの場合、自分自身の自我を完全に消せずに、上からビビッドな色を塗ろうとしても、下にある自分自身の色がうっすら透けてしまうものではないだろうか。

 

だから、私は大野智の演技が見たい。少女マンガ原作のラブコメなんか、事務所の後輩や若手のイケメン俳優に任せておけばいい。彼の稀有な能力が思いっきり活かせるような、他の役者が思わず尻込みしてしまうようなどぎつい役をやってほしい。

2019/3/16