Arashiology

大野担の嵐オタクによる嵐論

附章二

But, he hasn't changed at all けれど、彼は何も変わっていない

 

嵐の活動休止までのあいだに、第二、第三の衝撃波があるかもしれないとは思っていたが、こんな形でくるとは思わなかった。

 

20191112日、ニノが結婚を発表した。

 

発表当初、私は、ニノが完全に外堀を埋められて「結婚に追い込まれた」のではないかと想像した。ごく当たり前に交際がスタートしたものの、熱愛報道後、ファンの手で相手女性の「匂わせ」が発覚し、女性がものすごくバッシングを受けた。それで、バッシングに傷付いた相手を放り出すわけにもいかず、交際を継続した結果、相手は精神的ダメージから仕事を辞めた。そうこうしているうちに相手の女性もそれなりに年齢を重ねてくる。こういう状況のなか、健気にニノを待ち続け、結婚や出産を望む女性なら貴重であろう数年間、そしてキャリアまでニノに捧げた彼女。そんな相手を捨てるわけにもいかず、まさに「けじめをつける」ために結婚せざるを得なかったのではないか、と。

 

各種報道から、私はどうしても相手の女性に良いイメージが持てず、いくら熱愛報道が繰り返されても、この女性をニノの本命彼女とは思っていなかった。そんな相手とついに結婚したと知った私の感想は、「健気を装って重たい女だなあ。しかも実はしたたかで計算高い。ニノが後になって結婚を後悔しなければいいけど・・・」という感じだった。正直なところ、おめでとうと言いたいとはまったく思わなかった。

 

報道やSNSで私以外の人々の反応も見たが、案の定、ニノ担からファンではない一般人まで微妙なコメントが多かった。晴れ晴れとおめでとうと言っていたのは、大野くんオンリー担のような、要は「ニノの結婚なんてどうでもいい」人々だけだった気がする。嵐ファンから特に多かったのは、結婚するのは仕方ないが、なぜこの相手なのか、なぜ今のこのタイミングなのか、という声だ。嵐が21年目の新プロジェクトを発表してファンが盛り上がっていた矢先であり、20周年を祝う「5×20」コンサートをまだ数回残していたからだ。二日後から始まる札幌コンサートに参戦するべく、遠征準備をしていたファンはいったいどんな気持ちでニノを見ればいいのか。そういう戸惑い、嘆き、怒り、恨み、辛みでファンの巷は休止宣言以来の阿鼻叫喚に陥り、嵐のSNSも、祝福だけでなく、呪詛の言葉や担降り宣言があふれかえった。そういうファンの言葉はよく理解できる。

 

以前の章にも書いたが、嵐のメンバーが結婚するということは、「嵐以上に大切な人ができました」と宣言することだと私は考えている。いつかは受け入れなければならないと分かっていても、私はまだそれを受け入れる準備ができていなかった。少なくとも、嵐が2020年末にひと区切りつけるまでは、メンバーにとって一番大切なものは嵐であって欲しかったし、キラキラした五角形のまま、嵐を宝箱にしまいたかった。その期待が裏切られたという失望が怒りになってニノに向いた、というのが第一報から数日後の私の状態だった。

 

その後、相葉ちゃんと翔くんからの祝福メッセージが「微妙」だとか、松潤がニノに怒っているとか、相葉ちゃん以外はニノの結婚に反対していたとか、面白おかしく書き立てたゴシップが次々に投下された。メンバーはいちいち否定も肯定もしないため、ファンはそういう根拠の曖昧な報道に振り回されて疑心暗鬼になった。実際、そういう気持ちで見ていると、嵐が本当にギクシャクしているように見えてくるから不思議だ。ファンクラブ向けの告知動画でも、他のメンバーが自然にスキンシップしているのに、ニノだけはメンバーに触れるのを遠慮して、ぎこちなくなっているように見えた。今にして思えば、さすがのニノも各種報道に心が折れかけ、迷惑をかけたことをメンバーに申し訳なく思っていた面もあるのかなと思う。そういうニノを見て、私は怒りを感じるより、嵐の絆を信じさせてほしいと祈るような気持ちになってきた。たった一人の女性の登場で、十代の頃から20年以上、ファンの知らない景色も感情も共にしてきた五人の絆が壊れたというなら、私が好きになった嵐、私が六人目になりたいと思う嵐、ファンの自慢だった嵐は、たぶんもう存在しないのだ。

 

新プロジェクトで嵐を遠く感じ、ニノの件で嵐の絆を信じられなくなったことで、私の嵐に対する熱量は確実に下がった。しかし皮肉にも、熱量が下がったことで、ニノの結婚を冷静に捉えることもできるようになった。

 

真偽は不明ながら、ニノには過去にも何度か別の熱愛報道があった。だがその都度、相手と別れさせられたり、ニノのほうから別れたりしてきたらしい。当然、今度のお相手についても、熱愛発覚後に事務所からは別れるよう指示されたと思われるが、事務所が反対しても、彼女がどれだけファンにバッシングされても、何度ツーショットを撮られても、ニノは別れなかったのだ。もちろん、嵐の存在感が増して誰も嵐に命令できなくなったとか、ジャニー社長が一定の年齢を超えたタレントの結婚を容認する発言をしたとか、以前と違う状況もあるだろうが、少なくともニノにとって彼女は、逆風に耐えて5年以上付き合う価値のある女性だったということである。ニノの眼鏡に適わなければ、逆風が吹いた時点であっさり別れていたはずで、これは厳然とした事実だ。

 

週刊誌情報なので鵜呑みにはできないが、結婚発表よりだいぶ前に、ニノが結婚したいと事務所に直談判したという報道もあったし、木村(拓哉)先輩に相談を持ち掛けたという報道もあった。それが事実なら、ニノは結婚に背中を押してほしかったのだと推測される。人気絶頂期に強行突破で結婚した木村先輩に結婚を相談すれば、「辛いこともあったが、今は幸せにやっている」とアドバイスされるに違いないからだ。つまり、ニノは外堀を埋められて「結婚に追い込まれた」のではなく、結婚したかったから結婚したのだ。

 

以前、ニノがラジオで、「嵐5人でゾンビと戦うとしたら、どの順番で立ち向かいますか?」というファンからの質問に答えたことがあった。これに対して、ニノは縦一列に並ぶなら一番前がいいと言った。最終的にゾンビに噛まれてみんな死にます、となったときに、(他のメンバーに死なれて)4回信じられないほど悲しむくらいだったら、先に、流れでそのまま逝きたいと。ニノはいつもシニカルな言い回しをする人だが、言葉の中にたまに本音がにじむ。これもあくまで冗談っぽく語っているが、「メンバーが死ぬ姿を見るくらいなら、自分が死んだほうがいい」という彼の究極の本音ではないだろうか。

 

嵐愛が深く、嵐に関してはどこまでも利他的なニノは、しばしば、自分を含めない4人を「嵐の人たち」と呼ぶ。自分も嵐のメンバーであることを忘れて、嵐の一番身近にいるスタッフのように語ることがあるのだ。ゾンビの話もそうだが、思うに、ニノは嵐のことは何よりも大切に思っているが、(自分がその嵐であるにも関わらず)自分自身にはまるで無頓着なのではないか。嵐の活動休止発表まで、その情報が一切洩れなかったことを誇らしげに語る一方で、自分の熱愛情報や結婚情報は漏れるにまかせているのもそうだ。そんなニノの生活から嵐がなくなったら、ニノはどうなってしまうのだろう。これは私の想像だが、大野くんが嵐を畳みたいと申し出て、嵐がなくなるかもしれないとなった時、ニノは糸が切れたようになったのではなかろうか。そして、戻る場所を失った凧のようになったニノを、すでに交際していた彼女が「それならここに居ればいい」と地上に繋ぎとめたのではないだろうか。

 

私は、ニノが結婚した相手の人となりをよく知らない。しかし、もし彼女が「あなたが結婚できる状態になるまで待つ」と言ったら、ニノは嵐が活動休止するまで結婚しなかったかもしれない。ニノが(恐らくは嵐を畳む話し合いが始まったことで)結婚を意識したのを十分に分かったうえで、彼女は「結婚できないなら別れる」と言ったのだろうと私は想像する。この年齢の女性であれば当然の発言だし、自分のことに無頓着なニノが、アイドルにはリスクでしかない結婚を、わざわざ事務所に掛け合ったという背後には、女性の強い意志を感じるからだ。入籍日が令和11111日というのも、ニノの発想とは思えない。彼女は恐らく頭の回転が速く、したたかで、しっかりした女性なのだろう。黙っていれば何も進まないであろうニノとの結婚をてきぱきと進めて、ついに現実のものにしてしまった。そしてニノは、そういう彼女を、嵐の活動休止後も含めた人生のパートナーとして必要としたのだろう。

 

結婚発表から二ヶ月ほど経って、私はようやくそんな風にニノの結婚を捉えることができるようになった。結婚の経緯はあくまで私の想像に過ぎないが、「嵐の20年より彼女との人生を選んだ」わけではないと今は思える。多分、ニノにとって嵐が大切なことに一ミリの変わりもない。ただ、ニノの大切なものの中に、彼女が新たに加わったということなのだろう。この先、その大切なものの比重が変わっていく可能性はあるけれど。

2020/2/1